JR各社は何を考えて経営しているのか。鉄道経営の解説と、個人的な意見

JR各社は何を考えて経営しているのか。鉄道経営の解説と、個人的な意見鉄道
鉄道
この記事は約38分で読めます。

今まで日本各地を旅行するために、鉄道という手段を隈なく利用してきました。そして、日本全国に鉄道路線を持っているのがJR北海道・JR東日本・JR東海・JR西日本・JR四国・JR九州の6社「JRグループ」です。

最近、JRグループ何社かの株を購入しました。この記事では、今までの「旅行記事」を少し離れ、JR各社の経営まで立ち入って解説します。株主であると同時に、実際に全国津々浦々のJR路線を使ってみて感じる、各社の経営陣の思惑を解説します。

国鉄分割民営化によって誕生したJR各社

1987年、日本国有鉄道、通称「国鉄」が約10社に分割され、民営化されました。いわゆる「国鉄分割民営化」です。

日本国有鉄道(にほんこくゆうてつどう、にっぽんこくゆうてつどう、英語: Japanese National Railways、英略称: JNR)は、日本国有鉄道法に基づき日本の国有鉄道を運営していた公共企業体である。通称は国鉄(こくてつ)。

経営形態は政府が100%出資する公社(特殊法人)であり、いわゆる三公社五現業の一つであった。

鉄道開業以来、国営事業として鉄道省などの政府官庁によって経営されていた国有鉄道事業を、独立採算制の公共事業として承継する国(運輸省)の外郭団体として1949年(昭和24年)6月1日に発足した。

1987年(昭和62年)4月1日の国鉄分割民営化に伴い、政府出資の株式会社(特殊会社)形態であるJRグループ各社及び関係法人に事業を承継し、日本国有鉄道清算事業団(1998年(平成10年)10月22日解散)に移行した。

Wikipediaより引用

この国鉄をJRに分割したのが「国鉄分割民営化」です。

  • 松田昌士(JR東日本 第2代社長)
  • 葛西敬之(JR東海 第2代社長)
  • 井手正敬(JR西日本 第2代社長)

の3人が主導的に行ったことから「国鉄改革3人組」とも言われています。

JRに変わったことで各社が地域特性に合わせて経営をするように。そして、競争力を高めることに成功してきた側面もあります。特にJR東日本・東海・西日本の「本州3社」は借金を返済しながら経営を安定させ上場、JR九州は国鉄分割民営化の成功事例ともいえる「事業の多角化」「地域に合わせた経営」など、経営努力によって上場を果たしました。

ただ、JRに分割民営化されたことによってネット予約が統一されないなど弊害もあります。この辺りは、ここから先でも解説していきたいと思います。

国鉄分割民営化によって誕生したJR各社
国鉄時代の特急列車

大赤字を抱えていた国鉄に、メスを入れた「分割民営化」

旧国鉄は1964年に初めて赤字を計上し、以降毎年赤字が続きました。1964年といえば東海道新幹線が開業した年。いわば、新幹線によって経営がなり行かなくなったといっても過言ではありません。

もちろん、東海道新幹線は日本経済に大きなインパクトを与え、高度経済成長を支えました。日本の高度経済成長にとってなくてはならないインフラであったため、国民の血税で補填する必要があった、という意見もあるでしょう。しかし、税金では賄えないほどに赤字は拡大していきました。また、分割民営化すべき合理的な理由も多くありました。

特に1980年代は毎年1兆円以上の赤字を計上し、政府から多額の(1985年は、6000億円)補助金を出したが、金利さえも賄えない状況に。借金を返済どころか金利を支払うことすらできない状況に、一刻も早い対策が必要とされました。そこで、国鉄の経営がたちゆかなくなった理由が分析され、解決を図ることになりました。

その結果、政府系組織である「臨時行政調査会」は1982年、国鉄について現在のままの体制では改革が不可能である、と結論。公社制度を改め、民営化して分割するという、史実で行われた「分割民営化」の方針を発表しました。この報告に基づき設置された「国鉄再建監理委員会」は2年間にわたって改革の検討を行い、1985年に国鉄の分割民営化などを含む「国鉄改革に関する意見-鉄道の未来を拓くために-」を取りまとめ、内閣総理大臣に提出しました。

この記事ではこれを丁寧に解説することはしませんが、大まかに国鉄を分割民営化せざるを得なかったのには次の4つの理由がありました。

  1. 高度経済成長期(1960年代)により、自動車・航空機との競争が激化した
  2. 全国一律の巨大組織のため、それに応じた経営の舵取りができなかった
  3. 労働組織が巨大すぎて業務に影響を及ぼしていた
  4. 国からの支援と同時に経営面(投資、人事など)で多くの制約があり、経営陣の自主性がなくなっていた

まず社会的な流れとして、高速道路網が発達。1人1台の車を持つようになり、「移動=鉄道」の時代が終わりました。鉄道がインフラとして全国に張り巡らされたにもかかわらず、次は道路網がインフラとして全国に張り巡らされたのです。鉄道、特に地方ローカル線の役割は完全に道路に取って代わられたのです。

2つ目に挙げられるのが「巨大すぎる組織であった」ということ。国営企業として全国一括で経営していたこともあり、地域ごとの特性に合わせた経営ができていませんでした。例えばですが、北海道のローカル線と首都圏のアーバンネットワークを同じ感覚で経営しようとしたらうまくいかないに決まっています。地域ごとに特性があり、各地域ごとに競合があるにもかかわらず、組織が全国区のために各地域に応じた経営判断ができなかったのです。これが”分割”民営化する意味でした。

3つ目に、国鉄には労働者組合がありました。この存在も大きかった。先日亡くなられた元JR東海の社長・葛西社長はインタビューで、国鉄の末期の様子を「廃れゆく組織の最後の姿」と表現していました。朝から晩まで労働組合との交渉、交渉も建設的なものから程遠い怒鳴り合い。最後には人事権をも労働組織が握っている状態に近くなる。国鉄という巨大組織ゆえ、労働組合が大きくなりすぎて無視できない存在にまでなってしまったのです。

最後4つ目に、日本国有鉄道は、その名の通り国が所有する組織で、運輸省の直下にありました。したがって経営についても、重要な経営判断は全て、政府からの干渉を受けました。新線の建設などにおいては、実際に儲かるかなどといった側面より政治的な側面、それも時の大臣などの地元に線路を敷くような政策になりつつあったのです。

このような背景から、国鉄は実質的に倒産状態に。1987年4月に分割民営化を実施し、全国をJR北海道・JR東日本・JR東海・JR西日本・JR四国・JR九州に分割のうえ貨物部門はJR貨物に分割。それ以外にも多数のJR系列の組織に分割のうえ、民営化が行われました。

大赤字を抱えていた国鉄に、メスを入れた「分割民営化」
1つの組織が、首都圏から北海道の地方まで、新幹線から地方ローカル線まで経営し、組織が大きくなりすぎて自由が利かなかった。

各地の在来線網は赤字ばかり

国鉄は破綻したくらいですから、末期にはほとんどの路線で赤字を計上していました。完全な黒字はせいぜい

  • 東海道新幹線
  • 山手線
  • 横浜線
  • 京浜東北線

くらいのもの。在来線は基本的にほぼ赤字。「移動」=「鉄道」の時代に公共事業として税金で敷いてきた鉄道の役割が終わってしまったといっても過言ではありません。

そんな状況で民営化してはもちろん儲けが出ない。そこで”経営安定基金”を積むなど、さまざまなことが考えられたのです。こうして始まったJR各社の経営。各社の経営はあまりにも明確に安定性に差が出てしまいました。そしてその1番の差が、今になって見れば”新幹線を持っているか否か”でした。

ローカル線存廃に基準 有識者提言:日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO62894110W2A720C2MM8000/

各地の在来線網は赤字ばかり
マイカーの発達によって、列車を走らせていれば勝手に人が乗る時代は終わった

1にも2にも新幹線経営がカギになる

新幹線が重要なのはなぜか。理由は至ってシンプルで「単価が高い」。

首都圏をはじめとして、新幹線に比べて混雑している鉄道路線は多くあります。しかし、例えば首都圏で鉄道に乗ったとしましょう。運賃は、ふつう数百円程度、1000円を超えることはあまりないでしょう。要するに、お客さんを乗せてもあまり遠くまでいかないため、1人あたりが鉄道会社に支払ってくれる額が低いのです。

一方、新幹線では最低でも県境を超えることがほとんど。かなりの長距離を移動します。さらに、特急料金を徴収するため、1人あたりの単価はさらに上がります。そもそもの乗車距離が長いうえ、特急料金と合わせると、同じ距離でもおおよそ倍の料金を取ることができる新幹線は収益性が高いのです。

また、定期利用が圧倒的少数なのも新幹線の特徴です。新幹線の主要顧客はビジネス客。経費で出るため、定期券ではなく通常通り運賃を払って乗る客が圧倒的に多い。これもまた、新幹線の収益性が高い一つの要因です。

整備新幹線のスキームとリニア中央新幹線

整備新幹線は、分割民営化以降に整備された新幹線です。分割民営化によってJRは民営会社となりました。いくら鉄道会社とはいえ、新幹線のような莫大な費用を先行投資するのはあまりに非現実的です。税金が投入されることになります。

現在の新幹線では、東海道新幹線・山陽新幹線・東北新幹線(東京〜盛岡)・上越新幹線の国鉄時代に作られた新幹線以外は「整備新幹線」と呼ばれるスキームで建設されています。これは高速道路に似た考え方で、国や地方自治体の税金によって新幹線を建設、JRは線路使用料を払って線路を借り、そこに自前の電車を走らせて儲ける仕組みです。

原則として、国鉄分割民営化後はこのスキームで新幹線が建設されてきました。それを覆したのがJR東海です。JR東海は、リニア中央新幹線を自前で建設します。

整備新幹線には、費用便益費などに基づいた優先順位が付けられています。国民のためになる場所から優先的に建設されます。しかし、JR東海は、すべて自らの資金で建設することで、この優先順位に基づかないで先に建設を進めることができるのです。

これを示す最も良い例がJR東海です。JR東海は東海道新幹線が会社の利益の大半です。名古屋地区の在来線など含めてほぼ赤字らしく、新幹線が無くなれば途端に経営が立ち行かなくなる会社です・

1にも2にも新幹線経営がカギになる
高速輸送・大量輸送という鉄道の特性を発揮できるのが新幹線

各社の現状と経営方針を勝手に分析

ここまで見てきた国鉄分割民営化などの考え方を基に、JR各社の経営方針などをさらに深堀して解説していきます。

JR北海道ー経営難の代表格 “時代の流れ”に逆らえなかった北の鉄路

まずは最北端のJR北海道。国鉄分割民営化の失敗事例として挙げられてしまうことが多い。ここでは”赤字”であることを強調するだけではなく、どうしてこのような事態になっているのか、黒字化する見込みがあるのか、を考えていきます。

北海道に鉄道が敷かれた理由は主に2つあると考えています。1つ目が石炭輸送、2つ目が開拓のための国策です。

北海道では石炭が多く取れます。鉄道は高速輸送・大量輸送に適した交通手段です。石炭を効率よく運ぶために最適なのが鉄道なのです。こういった背景があり、北海道には多くの鉄道路線が敷かれました。実際、石炭輸送のために建設された路線は数多くあります。

2つ目に、開拓のための国策です。日本史で、日本が南満州鉄道の権益を手に入れた、ということを聞いたことがある人も多いでしょう。戦前の主たる交通手段は鉄道、鉄道を敷くということは、その地を実効的に支配することにつながったのです。明治時代以降、北海道の開拓を名目に支配を進めた政府が鉄道を敷いたのは、当時の考え方では自然な発想だったんだと思います。

ただしそこからだんだんと愚行が始まります。最たる例が札沼線と函館本線の例です。札沼線と函館本線は札幌近郊の路線ですが、ともに石狩川の沿線を走る路線です。ともにJR北海道に継承されましたが、2020年に札沼線の末端区間が廃止されました。

もともと鉄道ができる前は石狩川の水運によって、左岸も右岸も交通の便にさほどの違いはありませんでした。北海道の開拓が進む中で、鉄道が左岸にできます。左岸の町が急速に発展していくのを見て、右岸の町の人たちは焦るわけです。右岸にも札幌と直結する鉄道を造ってくれという運動が始まり、国策として北海道での鉄道建設を進めていた国はこれを受け入れます。

それらが国策によって買い取られ、JR北海道の路線となりました。このような経緯に加え、石炭輸送の手段としての鉄道整備が時代遅れとなったことで、JR北海道は厳しい経営を強いられるのです。

JR北海道ー経営難の代表格 “時代の流れ"に逆らえなかった北の鉄路
JR北海道は広大なエリアに路線を持つ

こういった時代背景から、JR北海道が厳しい経営を強いられたことはお分かりいただけたでしょう。では、これらは国鉄分割民営化以前に認識し、あらかじめ手を打つことはできなかったのでしょうか?

そのために用意されたのが経営安定基金です。経営安定基金は、厳しい経営が予想されるJR北海道・JR四国・JR九州に対して用意されました。国鉄の借金を継承するどころか、あらかじめ貯金を作ってプラスからスタートするわけです。これらの基金を運用したり、あるいは鉄道外ビジネスなどに投資することで経営を安定化させることが目的でした。

本来、経営安定基金による金利で赤字分を補うことが想定されていたものの、日本は超低金利時代に突入。国鉄の借金を継承した本州3社にとっては追い風となりましたが、JR北海道にとって金利が低いことは逆風でしかありませんでした。では、この経営安定基金によって経営を安定化させることはできなかったのでしょうか。

僕は、経営安定基金で、不動産開発などを進めることもできたのでは?と考えています。実際、北海道新幹線開業に伴うJR北海道の戦略を見ていると、その方針を感じます。新幹線の駅舎が大東案(在来線ホームより東に離れた場所)になってしまいました。これを裏手に、「札幌駅直結エリアが拡大する」と考え、今より大きなビルを建設することになっています。

JR北海道ー経営難の代表格 “時代の流れ"に逆らえなかった北の鉄路
札幌駅のエリア拡大は商業圏拡大に繋がるか

この戦略は、ビルでの収入だけでなく鉄道収入増加にもつながります。巨大なオフィスビルを建てれば、そこへ通勤するためにJRを使う人が増えるでしょうし、そのビルに入った会社を訪問するために北海道各地から特急列車で、あるいは新幹線が開業すれば東北各地から北海道新幹線で札幌駅にやってきます。もちろん、運賃はJR北海道の収入になります。北海道新幹線に対するJR北海道の戦略は正しい戦略だと個人的には思いますが、それでも赤字を補填することはできないでしょう。

個人的には、JR北海道がかなり頑張って、ここから30年スパンの計画で次の3点を中心に成長させれば、黒字化できるかもしれないと考えています(それでもあくまで「かもしれない」です)。

  1. 札幌駅の駅ナカビジネスを、JR東日本の東京駅レベルに成長させる
  2. 不動産開発を、JR九州レベルに発達させる
  3. 旭川駅直結で巨大オフィスを設け拠点化する

まず、札幌駅の駅ナカビジネスをJR東日本のレベルにまで発達させることが必要でしょう。もちろん、東京とは人口が違うので同等の収益は期待できませんが、それでも大きな収入になるでしょう(現時点でも実際、大きな収入になっています)。オフィス・ショッピング双方から札幌駅を一つの巨大な街とできれば理想です。これは実際、北海道新幹線開業に伴う札幌駅周辺の工事で既に着手しています。

次に不動産事業を押し進めること。これはJR九州が実際に成功しており、JR北海道も始めています。JR九州は「鉄道事業は赤字でもいい、ただ、鉄道事業を運営しているという信頼性でもって不動産で儲ける」と考えているようです(後ほど詳説します)。この考え方は、特に札幌近郊では取り入れられるでしょう。ただ、JR九州とは異なり、札幌近郊以外にこれを取り入れられるほどの都市がないのも事実です。

最後3つ目に、旭川駅でも札幌駅に近い拠点を儲けることです。旭川駅のリニューアルは最近行われたばかりで、現時点でとても綺麗なのでなかなか難しい側面があるのが残念。しかし、旭川は北海道第2の都市であり、その間は特急「カムイ」「ライラック」が所要時間1時間半で結んでいます。距離があるにもかかわらず、電化されていることと直線区間が多いことにより、1時間半で結ばれているのです。僕も何度か乗っていますが、所要時間としては東京ー名古屋のような距離感。そして「直線区間が多く高速で結んでいる」ということの裏返しとして、距離があります。距離があれば、JRの運賃・特急料金は高くなります。もちろん、それだけJR北海道の収入が高くなるわけです。東海道新幹線が超高収益になっているのと同じ理論です。

東海道新幹線とまではいかないものの、札幌=旭川という大動脈をフル活用したいところ。そう考えたときに、既に開発が具体化している札幌に加え、旭川駅周辺も開発していくべくと考えるのです。実際に旭川に足を運んだ経験から、旭川駅周辺は比較的巨大なビルは少ないながら、新しいビルが多いため開発の余地が少ないことは理解しています。ここをどううまく経営していくか。個人的には、例えば北旭川駅周辺を重点的に開発し、開発が進んだら特急「カムイ」「ライラック」を延長運転する、なんてことも考えていますが、駅のホームの長さなどの問題から、大規模な工事が必要なためこれもやや難しいでしょう。

JR北海道ー経営難の代表格 “時代の流れ"に逆らえなかった北の鉄路
旭川〜札幌の電化された大動脈を活用できないものか

最近、「ドイツ鉄道がスターアライアンスに加盟」というニュースが入ってきました。JR北海道も加盟できないのか?なんて考えたりもしました。現時点でも既にANAやJALと協力をしていますが、特に新千歳空港へと乗り入れているため、航空会社連合へ正式に加入すればさらなる集客が期待できるでしょう。

JR北海道は経営が厳しいことは確かです。さまざまな施策をおこなっており、ここでもいくつか案を挙げました。それでも、今後の人口減少と北海道の「札幌一極集中」を考えると、廃線もやむなし、地域交通に必要な路線の維持には、現状の枠組みでの国からの支援に頼るしかないと考えます。

JR北海道ー経営難の代表格 “時代の流れ"に逆らえなかった北の鉄路
国と道の支援によって導入された「はまなす編成」

JR東日本ー新幹線経営と首都圏在来線経営を軸とし東北地方の赤字ローカル線を維持する

続いてはJR東日本。JR東日本は、利用者数はJRグループの中でトップです。首都圏という大きな市場、そして、東北新幹線・秋田新幹線・山形新幹線・上越新幹線・北陸新幹線(上越妙高まで)を持っており、“収益源”となる路線を多く持っています。一方で、東北地方の地方ローカル線を中心に、赤字路線も多く持っています。JR東日本に課せられたのは「首都圏の(東海道新幹線を除く)全路線と、首都圏中心に多数の国鉄付帯事業をあげるから、東北の赤字ローカル線も維持してね」という課題だったと言われています。

同時に、首都圏を中心に「地域に即した経営」を行い、成功を収めました。特に首都圏における経営は、駅ナカビジネスを成長させたことで鉄道外収入も多く得られています。いま、首都圏の各駅に足を運んでみてください。多くの駅の改札内に飲食店や書店などが並んでいることがお分かりいただけることでしょう。

JR東日本ー新幹線経営と首都圏在来線経営を軸とし東北地方の赤字ローカル線を維持する
東京駅の駅ナカはかなり賑わっている

また、交通系ICカードSuicaは大成功を収め、手数料収入も大きな収益源となっています。ICカードはクレジットカードとは異なり、JR東日本が発行しているため手数料収入が全てJR東日本の収益源になります。交通系ICカードが利用できる場所を積極的に増やし、「1枚のSuicaで外出が完結する」状況を目指していると考えられます。僕自身も実際、「モバイルSuica」が便利なため、SuicaをメインのICカードとして使っています。クレジットカード会社がクレジットカードの手数料収入で生計を立てていることを考えると、それと似た規模(ただしクレジットカードとは異なり、高額の利用がないためやや少ないと考えられる)のSuicaの手数料というのはかなり大きなものであることがお分かりいただけるでしょう。

新幹線も収益源の1つとして挙げましたが、東北新幹線での収益は限定的で東海道新幹線に比べて需要は小さいと考えられています。東海道新幹線がビジネス利用が圧倒的に多く、「安定性」を追求しているのに対しJR東日本の新幹線は観光利用の割合も一定数あるため、「えきねっとトクだ値」などの割引きっぷを発売しています。

JR東日本ー新幹線経営と首都圏在来線経営を軸とし東北地方の赤字ローカル線を維持する
新幹線は、東海道新幹線と比べて観光需要が中心

また、JR東海の東海道新幹線と比べて新幹線のスピード重視していることも特徴です。現在、宇都宮〜盛岡の「はやぶさ」「こまち」号では国内最速となる320km/h運転が行われています。今後は、盛岡〜新青森間も320km/h化を目指すそう。

JR東日本が、新幹線のスピードアップに執念を燃やしている理由として、

  • 北海道新幹線の札幌延伸を期に、札幌発着のシェアを獲りたい。特に首都圏〜札幌。
  • 東海道新幹線と比べ、途中に大都市が少ない割に距離が長い。
  • JR東海がリニア中央新幹線を建設しているのとは異なり、リニアを引くほどのお金も需要もない。
  • 線形がいいのでスピードアップがしやすい。

ことが挙げられるでしょう。現在も、北海道新幹線札幌延伸に向け、360km/hを目指した試験走行が繰り返し行われています。

JR東日本ー新幹線経営と首都圏在来線経営を軸とし東北地方の赤字ローカル線を維持する
今後の主役になると考えられる、E5系・H5系

また、新幹線の車両の種類を増やしすぎたことを反省している模様。そのため、今後は「東北新幹線」系統と「上越・北陸新幹線系統」(+ミニ新幹線)の2種類(3種類)で、それぞれ車両が統一されていくと考えられます。

JR東海ー東海道新幹線の莫大な収益で国鉄の赤字を返済するための会社

JR東海は何と言っても「東海道新幹線の運営会社」。90%以上が東海道新幹線による稼ぎ(2019年度の営業収益の92%が東海道新幹線によるもの)です。「新幹線一本足打法」と言われています。

JR東海ー東海道新幹線の莫大な収益で国鉄の赤字を返済するための会社
JR東海は「東海道新幹線の運営会社」

一般管理費・減価償却費除くと、新幹線の営業係数が40以下ではないかと言われています(正確な数値は公表されていません)。100円稼ぐために必要な費用がたったの40円。6割は会社の利益として使われているのです。実際公表されている年間収益が約1兆3000億円(2019年)。計り知れないほどの巨額です。一方の在来線の営業係数150以上。ほぼ全ての線区で赤字です(これについては後ほど解説します)。

そして現在、リニア中央新幹線をJR東海が主体となって建設しています。財政投融資を使うとはいえ高速鉄道を一民間会社が建設するというのは前代未聞。普通、国主体で税金が投入されるような鉄道路線、それもリニア中央新幹線という、最先端かつ長距離の高速鉄道、建設費がかかる要素しかない事業を自社事業として展開するのです。いかに、東海道新幹線の利益が莫大なものかが分かります。

「リニア中央新幹線が切り拓く未来」

ただ、リニア中央新幹線開業後の東海道新幹線の扱いは気になるところ。「ひかり」号や「こだま」号の増発によって、静岡県内を中心とした利便性の向上が望まれています。

また、ビジネス需要が中心であることもあって、鉄道会社でほぼ唯一「需要がコロナ禍以前に戻る」と予想しています。JR各社が「需要が戻らない」という前提でコストカットを急ぐ中、JR東海はリニア中央新幹線をはじめとした運輸事業の展開を続けているのです。

JR東海の姿勢は、JR東海の元社長である葛西氏のインタビューに象徴されています。

端的に言って、JR東海は「東海道新幹線会社」です。幹線やローカル線など新幹線以外の路線はすべて赤字です。

だけど「路線単体として赤字」というのは、国鉄時代だと線区別原価計算を盛んに言って、政府から助成金を取るための論理でした。

民営化と同時に、東海道新幹線を便利に使うために東海道本線など在来線のほとんどは、東海道新幹線のネットワーク鉄道の一部になると考え方を変えました。

東海道新幹線を基軸とするアクセスネットワークと考え、これを強化すると方向転換したのです。

日経ビジネス JR東海・葛西元社長インタビュー

つまり、先ほど述べた「全路線で赤字」の在来線をお荷物として捉えるのではなく、新幹線の停車駅がない各地への補完的ネットワークと考えているのです。その象徴として、JR東海は唯一、コロナによる終電繰り上げをおこなっていません。ほぼ全ての在来線各線区が、東海道新幹線の最終列車からの接続を考慮して設定されているためです。

JR東海ー東海道新幹線の莫大な収益で国鉄の赤字を返済するための会社
一方の在来線の営業係数150以上と言われている

「JR東海は、東海道新幹線があるから安泰だ」とよく言われます。元からあった、経営環境が、という言われ方をしますが、東海道新幹線をここまでドル箱路線に仕立て上げたのは間違いなくJR東海の努力によるものでしょう。のぞみの運転開始、品川駅開業、のぞみ10本ダイヤ、さらに、のぞみ12本ダイヤなどはJR東海の努力によって実現したものです。現在、東海道新幹線の利用者数は1億7千万人となっており、「のぞみ」号は、のべ13億人を運んだ(日本の人口が1.2億人)そう。延べ人数で、日本の人口の10倍以上を運んでいるのですから驚きです。

また、JR東海は鉄道ファンからは賛否両論ある会社のようですが、実際のところ本当に鉄道が好きな会社なんだと感じます。最新の車両には、新幹線・在来線関わらず最先端デバイスを搭載しています。例えば最近の事例では、N700Sのバッテリーや8両化、在来線通勤用車両・315系の「冷暖房 AIによる自動学習・制御最適化機能」「非常走行用蓄電装置」(非常バッテリー)など、そして特急「ひだ」に投入されたHC85系のハイブリット式特急電車など。

JR東海ー東海道新幹線の莫大な収益で国鉄の赤字を返済するための会社
非電化区間に電車を走らせることになった「HC85」

JR東海は「嫌われない施策」に徹しています。先ほど紹介した、新幹線や315系のバッテリーにその側面が見受けられます。315系に関するJR東海公式サイトにもあるように、安定性・安全性には多大な投資をしています。また、2022年6月には、28億円かけて、新幹線車両開発のためのブレーキ試験装置を導入。最大の顧客がビジネスマンであることを考えると、安定輸送が最大のニーズです。これを踏まえれば、これらの“目に見えない”安全投資は、ビジネスマンに嫌われないことを考えたときにリターンのある投資と考えているのでしょう。実際に現在、通勤のためにJR東海の鉄道を利用していますが、社員全体の安全意識は目を見張るものがあります。他のJR各社では絶対にあり得ないほどの安全意識です。

2022年11月、JR東海は新たな経営戦略を発表しました。東海道新幹線への上級グリーン車設置や、在来線特急のチケットレス推進、ICカードエリアを全線へ拡大することなどが基軸です。

東海道新幹線への上級グリーン車設置は、リニア中央新幹線開業後も見据えた措置だと考えられます。リニア中央新幹線開業後は、東海道新幹線の単価が下がることは容易に想像できます。現時点でグリーン車を利用している経営者などの富裕層はリニア中央新幹線に転移するでしょうし、東海道新幹線が黒字になる程度の利用者数を維持するためには割引きっぷを発売することになると想定できるからです。観光利用に重点を置くことになる東海道新幹線は、観光利用が重点だからこそ、多数の割引きっぷを設定せねばならなくなります。そのような状況下において、単価を上げるためには「東海道新幹線のビジネス利用の存在意義」を見出す必要があります。それが、ANAやJALでも、座席数は少ないながらも根強い人気で満席が続出する、飛行機でいう「ファーストクラス」なんだと思います。

JR東海には、飛行機の国内線ファーストクラスを徹底的に分析してサービスを考えてほしいと思います。ANAが羽田〜欧米路線のビジネスクラスに投入した「The Room」などはかなり参考になると個人的には思います。

交通系ICカードを全路線に展開することで、チケットレス化が図れます。紙のきっぷとICカードでは、改札などをはじめとした設備が全く異なります。ICカードのみ対応の改札機の方が圧倒的に本体価格・維持管理費用ともに安価に済むのです。在来線特急におけるチケットレスサービスもこの考え方に基づくものです。逆に今まで、在来線特急を利用するような区間ではICカードの整備区間が短かった。決して意地を張っていたのではなく、コストパフォーマンスに見合わないがゆえに在来線特急のチケットレス化を推進してこなかったのだと考えられます。在来線特急のチケットレス化を行ったところで、名古屋〜高山や名古屋〜松本・長野などの利用者の多い区間では結局「紙の乗車券」となるからです。

JR東海も本格的に、人員削減に動き始めました。最も、リストラによる人員削減ではなく、できる限り今まで通りに近い採用人数で、リニア中央新幹線の事業を進めたい。人的ソースをリニア中央新幹線に回したいという意図が見て取れます。

JR東海と静岡県について

現在、リニア中央新幹線の静岡工区をめぐって、JR東海と静岡県がかなりやり合っています。客観的に見た時、僕はJR東海に分があると考えています。

静岡県の主張はあくまで、静岡県知事が支持を維持するためのものです。環境を口実にヒーローを演じれば、県民の支持を繋ぎ止められます。

そもそも「のぞみ」運転開始以降、静岡県はJR東海に対して強硬な態度を取ることで知事の支持率を維持してきました。この点について、客観的に見てみましょう。

静岡県内のJR東海が運営する在来線で、JR東海が廃止を提案した路線は今までに1つもありません。あの秘境路線として名高い、JR飯田線も含めてです。また、JR東海は、全国のJRを見てもトップレベルに快適な通勤型車両313系を自社のスタンダート車両と位置付け、ローカル線である飯田線を含めた静岡県内路線に全国的にみてもかなり快適な313系を大量に投入していますこのように客観的に見て、静岡県内の在来線は、利便性が高く維持されています

東海道新幹線に目を向けてみましょう。東海道新幹線は現在、N700系列で統一されています。「のぞみ」「ひかり」「こだま」を全て共通運用としている(例えば、「のぞみ」として新大阪から東京まで走った列車が、折り返し「こだま」号として新大阪まで走ることもある)のが特徴です。すなわち、コンセントや車内Wi-Fi、そして新型車両の快適な座席など、看板列車と同等のサービスを各駅停車の列車でも提供しています。JR東日本などに目を向ければ、最新鋭のE5系は「はやぶさ」に投入され、数が増えてから間合運用的な使い方で各駅停車「なすの」などにも投入されました。「ひかり」「こだま」に、「のぞみ」で使い古した旧型車両ばかりを回すことなく(JR西日本は実際にこういったことをやっている)、新型車両デビュー当初から静岡県内の各新幹線にしっかりと新型車両を回しています(N700S系投入時も、初期から「ひかり」「こだま」への充当がありました)。

さらに、静岡県内の駅では、東海道新幹線開業以降、列車の削減は行われていません。静岡と同程度の都市と考えられる宇都宮(人口や東京からの距離が静岡とほぼ同じ)でも新幹線は毎時3〜4本。静岡も同様に毎時3〜4本。北側の静岡と同等の都市と比べたとき停車本数などの待遇は変わりませんし、むしろ16両編成で統一されているため、提供座席数は多く、混雑しない快適な車内空間が提供されます。

このように、JR東海としては静岡県内の利便性を少しづつ上げながら、需要が大きすぎる「のぞみ」の増発を行ってきたのです。「のぞみ」批判は歴代静岡県知事の得意技ですが、新型車両の投入などを含めて、静岡県内の利便性は向上しているのです。このような背景から、僕は「のぞみ批判は静岡県知事の支持率維持のため」と思ってしまうのです。そして、JR東海が静岡県に示す土木資料を見る限り、JR東海は大井川の水対策に論理的に取り組んでおり、「リニア建設の邪魔をすること」を目的としてリニアの静岡工区の工事がストップしていると感じています。

JR西日本ー新幹線経営を軸として広大な地域の赤字ローカル線を維持する

JR西日本は、京阪神圏から本州の最西端・下関に至るまでの在来線と山陽新幹線については九州島内・博多までを運営します。山陽新幹線の利益が最大(客単価)で、コロナ禍以前は山陽新幹線の利益が会社を支えていたと考えられます。

JR西日本ー新幹線経営を軸として広大な地域の赤字ローカル線を維持する
JR西日本-新幹線経営を軸として広大な地域の赤字ローカル線を維持する

JR東日本とは異なり、関西圏の収益は限定的であると考えられます。首都圏とは最も大きく異なるのは、大手私鉄との熾烈な争いがあること。首都圏では、特に山手線内には地下鉄とJRしか走っていないのに対し、関西圏では中心地まで私鉄各社が乗り入れています。私鉄王国・関西では、私鉄が各方面に線路を伸ばしているため、私鉄各社に圧勝することがなかなかできない。需要が分断されてしまうのです。

2000年前後には、この大手私鉄に打ち勝つために安全よりスピードを重視した体質になっていました。その最たる例として、福知山線の脱線事故が起き、日本の鉄道史上で類を見ない被害を発生させました。JR西日本はこれをかなり大きく捉えており(JR西日本ホームページには、今でもトップページに大きく福知山線脱線事故に関して掲載がある)、経営陣の刷新と会社の体質の抜本的な改善をおこなっており、最近は少しづつ変わりつつあります。

また、JR東日本に近い部分もあります。鉄道外事業、特に鉄道付帯事業としての駅ナカ事業には積極的です。その最たる成功例が、京都駅の開発。京都駅の開発により、京都の中心地を河原町周辺エリアから京都駅周辺エリアへと移してしまったのです。

もともとは、河原町などの京都中心エリアへの乗り換え地点という位置付けだった京都駅は、今では立派な駅ビル立ち、京都市の中心街となっています。

京都駅大阪駅
1991年132,672414,234
2001年167,416430,995
2011年185,983406,576
2019年195,000422,685
京都線 京都駅・大阪駅の利用者数の推移

同じ京都線の大阪駅と比べてもかなりの伸びであることがお分かりいただけると思います。京都駅ビル完成により、京都駅は4.8%の乗車人員上昇しているのです。これは他のJRにとっても参考になると考えます(JR四国・松山駅など)。

JR西日本ー新幹線経営を軸として広大な地域の赤字ローカル線を維持する
JR西日本が開発した京都駅

JR西日本が置かれた経営環境は、安泰に見えて意外と脆い。原因は、中国地方の絶望的な赤字路線の山です。

2022年4月に発表された線区別収支の一覧を見てみると、次の通りになっています。

順位路線名区間営業係数運輸収入(億円)営業損益(億円)輸送密度(人/日)
1芸備線東城~備後落合25,4160.01▲ 2.611
2木次線出雲横田~備後落合6,5960.04▲ 2.737
3芸備線備中神代~東城4,1290.1▲ 2.081
4芸備線備後落合~備後庄原4,1270.1▲ 2.662
5大糸線南小谷~糸魚川2,6930.2▲ 5.7102
6福塩線府中~塩町2,5810.3▲ 6.5162
7因美線東津山~智頭1,9630.2▲ 3.9179
8加古川線西脇市~谷川1,5670.2▲ 2.7321
9越美北線越前花堂~九頭竜湖1,3660.7▲ 8.4399
10姫新線中国勝山~新見1,3490.3▲ 3.5306
11木次線宍道~出雲横田1,3230.6▲ 7.2277
12山陰線益田~長門市1,3140.9▲ 11.5271
13山陰線長門市~小串・仙崎1,2080.9▲ 9.5351
14小野田線小野田~居能など1,0710.2▲ 2.0444
15津山線上月~津山8870.5▲ 4.0413
16芸備線備後庄原~三次8710.3▲ 2.5381
17山陰線城崎温泉~浜坂8501.6▲ 11.8693
18山陰線浜坂~鳥取8491.1▲ 8.5921
19姫新線播磨新宮~上月7510.9▲ 6.0932
20関西線亀山~加茂6852.5▲ 14.61,090
21山口線津和野~益田6810.9▲ 5.5535
22小浜線敦賀~東舞鶴6783.1▲ 18.1991
23芸備線三次~下深川6712.3▲ 13.2888
24美祢線厚狭~長門市6300.8▲ 4.4478
25姫新線津山~中国勝山6100.8▲ 4.1820
26山口線宮野~津和野5661.8▲ 8.4678
27紀勢線新宮~白浜5256.7▲ 28.61,085
28山陰線出雲市~益田44610.0▲ 34.51,177
29岩徳線岩国~櫛ヶ浜3941.8▲ 5.41,246
30播但線和田山~寺前3403.0▲ 7.31,222
JR西日本が発表した線区別収支

国鉄時代に建設した、山陰地方と山陽地方を結ぶ各路線が、今では特急列車も走らず、JR西日本としては重荷になっています。

芸備線なんかはもはや路線バスでも維持できないような路線。この線区別収支が発表されたのち、これでも広島県知事は「廃線なんて勝手なことを」と発言されたようでびっくりしました。逆にどういう発想があればこの利用者数で鉄道を維持しようという発想になる。ここまで文句を言わずに新幹線などの利益をつぎ込んで経営してきたJR西日本に対して頭が下がります。同時に、JR西日本の株主として、そろそろ本格的に手放す協議を始めてほしい、ということもまた事実です。

JR西日本ー新幹線経営を軸として広大な地域の赤字ローカル線を維持する
JR西日本は赤字ローカル線が多い

JR西日本はまもなく、北陸新幹線の敦賀延伸を控えています。これによって、「並行在来線」が分離され、北陸本線のほとんどが、都道府県運営の第3セクターになります。同時に、北陸本線から枝分かれしている路線が飛地になります。

城端線・氷見線は仕方ありません。この2路線は、高岡周辺の通勤路線としての役割をもち、特に城端線は北陸新幹線へのアクセス路線の役割を持ちます。もし富山県や地元自治体が同意してくれるのであれば、LRT化するという選択もあるでしょうが、少なくとも全線LRT化は距離的にありえません。新型のハイブリット車両などを投入して運行費用の削減などで維持していくことになるでしょう。

僕が最も経営改善策があると考えるのが高山線。高山線は、猪谷という微妙な駅でJR東海とJR西日本の管轄が分かれ、JR西日本は北陸本線が経営分離されたいま、猪谷以北だけを所有しています。JR東海に譲渡せよという意見もありますが、JR東海からすれば赤字路線を押し付けられるに過ぎず、完全民営化した今、それを受け入れる意味は皆無です。

本来ならばJR東海が高山線全線を運営するのが効率的ではありますが、僕が現時点で最適解と思うのは「JR東海のキハ25をJR西日本が数編成購入し、それを走らせること」。もちろん、整備業務もJR東海に委託。これの見返りとして、特急「南紀」のJR西日本乗り入れ廃止による車両使用料で相殺。(特急「南紀」の数往復だけのためにJR西日本が紀伊半島にディーゼルカーの運転手を配置しているはずなので、JR西日本としてもありがた迷惑だと思います。)さらに効率化を図るのであれば、JR西日本が人件費を支払う形で、運転業務もJR東海に委託、駅などの施設管理はJR西日本が行えばいい(北陸新幹線の富山駅があるため、施設整備業務で関西エリアなどからスタッフを派遣することはあまり困難ではないと考えられる)。JR西日本路線のまま、“動くもの”は全てJR東海。運賃はJR西日本に入ることになるでしょうから、上下分離でもありません。分割民営化をしてしまった今、これが最適解だと思います。

JR四国ーJR北海道より手詰まり感 “高速化”以外に勝負できない現状

2015年に北海道新幹線が開業し、唯一の新幹線をもたないJRとなりました。JR各社の経営の基盤が新幹線で得た稼ぎであることを、指を咥えて見ているだけの状態です。

JR四国は毎年巨額の赤字を計上しています。国は、四国にも高速道路の建設を進めています。JR四国を窮地に追いやる政策を進めているとしか感じられません。にもかかわらず、今までJR四国は廃線なしに経営の安定化を図ってきました。JR北海道とは対照的です。

しかし、コロナ禍でついに方針転換を余儀なくされました。2022/05/17、JR四国の社長がついに「廃線」に言及。利用者の少ない路線から廃線していくことを考える、と記者会見で述べました。いよいよ高規格道路が整備された地域で鉄道を維持していく方法がなくなった、そろそろ手詰まりだ、ということでしょう。

今まで日本全国を旅して、JR四国の鉄道にも何度か乗ってきましたが、赤字なりにもなんとか利便性を確保しようとしている印象です。1両編成で多頻度運行によって利便性の確保したり、特急列車も短編成の列車が1時間おき程度に行き来しています。

例えば徳島線の佐古~佃の間はあまり人家は多くない。しかし輸送密度は2,886あり、特急「剣山」も1日10往復近く運転されています。赤字ローカル線をなんとかしようとして利便性維持を考え、そしてなんとか目を当てられる程度には維持している、これがJR四国です。

JR四国ーJR北海道より手詰まり感 “高速化"以外に勝負できない現状
吉野川沿いを走る徳島線 写真の通り人家が多いとは言い難い

しかし、四国の人口減少の現状、そして山が多い地形を考えるになかなか黒字化は難しいでしょう。四国の一つの特徴として、岡山を中心にアメーバ状に広がる都市が挙げられます。岡山という、四国外を中心としているのもまた大きな痛手。さらに、東京ー名古屋ー大阪のように、直線的に都市が位置しているのであればまだしも、高松・松山・高知・徳島とアメーバ状の位置関係。

このような位置関係から、各都市を直線的に結ぶことが困難です。これが、四国新幹線の話が一向に進まない要因です。四国新幹線を建設するとすれば、3路線や4路線を建設しなくてはならないことになり、黒字化が見込めないためです。

高松や松山など、ある程度の都市があるとはいえ、人口を考えた時にあまり需要は大きくない。現状でもよく、潜在需要を掘り起こしていると思います。鉄道事業においてこれ以上の増益は困難であり、全体として黒字化するためには鉄道以外の事業しかあり得ません。しかしそもそも需要が小さすぎる。

次に解説するJR九州を見習い、鉄道とその付帯ビジネスを一体的に見ていくしかないでしょう。

JR九州ー離島3社の中で唯一上場達成 事業の多角化で成功

JR九州は、現時点で離島3社の中で唯一、上場を達成しました。JR九州の成功は、なんと言っても「多角化」でしょう。JR九州の経営は

  • 鉄道事業
  • 建設業
  • 不動産業

が3本柱。鉄道だけでなく、建設業や不動産業も同程度に経営の基盤になっているのです。

JR「経営多角化」のモデル、実は近鉄だった
JRが発足する2年前、分割民営の方向が決まった直後のことだ。国鉄で常務理事首都圏本部長の職にあった私が、民営化のお手本として目をつけたのが日本最大の私鉄、近畿日本鉄道だった。東京や大阪の私鉄は巨大都市…

JR「経営多角化」のモデル、実は近鉄だった JR九州初代社長が明かす国鉄改革成功の理由(東洋経済オンライン)でJR九州の初代社長がインタビューに答えています。「鉄道を運行する、その信頼性を活用して他のビジネスを進めていく」というモデル。鉄道はあくまで赤字でも仕方ない。赤字を出してでも安全運行を最優先する。九州全域の鉄道を維持している会社、という信頼性をもとに他のビジネスを進める。

鉄道事業は“企業価値向上”のために活用しているのです。特に不動産事業における信頼性は抜群です。JR九州は、鉄道事業でも黒字を出していますが、鉄道は「走る広告」という見方をしている面もあります。

さらに鉄道事業と不動産販売は相乗効果もあります。不動産販売で、「快速停車」「改札口増設」などもウリにすることができます。鉄道事業によって得た信頼とともに、鉄道経営との連携によってさらに不動産価値を高めることができます。

また、JR九州は観光列車を数多く走らせていることで有名です。観光列車は、それに乗りにきてくれる、それだけではなく、観光列車に乗るために新幹線に乗ってくれる。各社の経営は、やはり新幹線が最優先です。JR九州の観光列車も「36ぷらす3」を除いては、新幹線との接続が考慮されています。「観光列車に乗るためには新幹線に乗れば便利、だから新幹線で行こう」…これこそがJR側が最も望む形なのです。

しかし、観光列車はそれに乗ってくれるだけがメリットではありません。JR九州の場合、地元とのコミュニケーションにも活用しています。観光列車を走らせ、観光客を送り込むことによって、地元との信頼関係を築くのです。これがまた、先ほど紹介した不動産事業などを展開していく上で、地域展開の下地となり鉄道外事業の成長にもつながるのです。

JR九州ー離島3社の中で唯一上場達成 事業の多角化で成功
観光列車を数多く走らせているのもまた、JR九州の特徴である(写真は「かわせみ・やませみ」)

JR東日本と近く、駅ナカビジネスの成功が大きな上場の要因でもあります。県庁所在地の駅には自社ビルを建設し、駅ナカビジネスを進めています。JR九州の各都市を何度か回ったことがありますが、どこへ行っても本当に立派な駅ビルがあります。そして、九州の中でも比較的「地方」というような場所であっても賑わっているのです。

JR九州は新幹線を経営しています。新幹線経営の一つの特徴として、パーク&ライドの推進が挙げられます。新幹線駅や特急停車駅の周りに駐車場を設置、新幹線定期券や特急定期券とセットで割引を行います。こうすることで新幹線・特急通勤の推進し、単価の向上を図っているわけです。実際に、各新幹線の定期利用者の割合を見てみるとかなり多いことがわかります。

路線定期券利用客割合(%)年間利用者数(人)うち定期券利用者数(人)
九州新幹線18.92%11,347,0002,647,000
東北新幹線19.82%89,435,00017,723,000
上越新幹線19.61%42,138,0008,263,000
東海道新幹線9.06%174,845,00015,845,000
主要新幹線の定期利用者数

JR東日本の各路線は、首都圏での通勤需要があります。にしてもそのJR東日本と同程度の新幹線定期券利用者数の割合を誇ります。かなり大きいことが見て取れるでしょう。

JR九州ー離島3社の中で唯一上場達成 事業の多角化で成功
新幹線や特急通勤を促進するような施作も積極的に推進している

2022年9月には、西九州新幹線が開業しました。西九州新幹線開業により、博多〜長崎間の所要時間が短縮されたものの、乗り換えが必要という大きなデメリットを抱えることになりました。JR九州からしてみれば、爆弾を抱えて経営をしているようなものです。

西九州新幹線「かもめ」

新幹線を開業したにも関わらず、単価が下がりかねない(バスに流れる観光客を引き留めるために割引きっぷを多く発売せねばならない)危険性があります。九州新幹線部分開業時とは違い、武雄温泉以東の建設計画が白紙状態。いつ、博多まで繋がるかもわからない。西九州新幹線の経営にはかなり気を遣うことになるでしょうが、JR九州の1株主としては、過去の経験からうまくやってくれることを信じています。

必要に応じた廃線もやむなし?

ここまでJR各社の経営について解説してきました。特に地方の路線は赤字で、JR各社の経営を圧迫していることがお分かりいただけたでしょう。

コロナ禍の影響もあり、各社が廃線の話を切り出しています。これに対し、地方の首長の「寝耳に水」という発言があらゆる地方で飛び出していますが、これはあまりに無責任。自分の街で事業をする会社に対して「赤字でも続けろ、やめるな」と言っているわけですから。

そもそも鉄道の特性を考えたとき、1時間2本程度の本数を切ったくらいで察しなくてはならないわけです。そして先に動かなくてはならないわけです。例えば島根県の木次線は、JR側が廃線を切り出す前から地元が危機感を感じ、JRとともに動き出しているのです。廃線に言及されてからでは正直なんともならないのです。

なんでもかんでも廃線を受け入れろ、とは言いませんが、今日の鉄道経営を見ている以上、廃線の話が持ち出された線区で、廃線は…と思うような路線はほぼありません。

新幹線建設で問題となる「並行在来線」の扱い

2030年ごろの北海道新幹線延伸と同時に、函館本線の長万部〜小樽間が廃止されることが決まりました。いわゆる「並行在来線」のスキームに基づくJRからの経営分離で、地元が経営を放棄したわけです。

整備新幹線の建設の条件は5つ

  1. 安定的な財源見通しの確保
  2. 収支採算性の確保
  3. 投資効果
  4. JRの同意
  5. 並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意

となっています。新幹線に代表される「高速長距離輸送」が利益の柱である地方の路線では、在来線特急列車が走らなくなった在来線幹線は赤字に転落するわけです。

しかしながら、特急列車が走らなくなったからといって設備のスリム化ができる訳ではありません。貨物列車が走るために高規格で維持しなくてはならない場合がほとんど。しかし、JR貨物の「アボイダブル・コスト・ルール」があるため、JR貨物から線路使用料はほとんど得られません。

そこで考えられたのが「並行在来線の分離」。新幹線を建設する代わりに、JRの経営から手放す、必要ならば自治体が出資して維持せよ、ということです。

IGRいわて銀河鉄道は経営努力の結果、東日本大震災後の2010年度以外は黒字決算です。しかしその根底には、「貨物調整金」という名の補助もあることは忘れてはいけません。鉄道運輸機構から、「アボイダブル・コスト・ルール」による、JR貨物からの安価な線路使用料を補填するお金をもらっているのです。いわば、JR各社の整備新幹線のお金を、少しもらって経営しているのです。結局は、新幹線がなければ維持できない。残念ながらこれが事実なのです。

新幹線建設で問題となる「並行在来線」の扱い
青い森鉄道の車両(写真はIGRいわて銀河鉄道・盛岡駅にて) 東北本線を引き継いだ「青い森鉄道」「IGRいわて銀河鉄道」は2011年以外で黒字を計上しているが、収入の大半は「貨物調整金」。

地方の赤字ローカル線を、新幹線の収益で穴埋めできない

JR西日本の収支発表を皮切りに、JR東日本も発表しました。これは明らかに「地方ローカル線は、そろそろ維持できない」というJR各社の本音です。

芸備線の衝撃の「営業係数25,000」など、いくら新幹線収益があるとはいえもはや民間企業で賄えないレベルのローカル線が多くあります。コロナ禍による収益減はそれに拍車をかけました。新幹線経営によってなんとか黒字を維持していた会社が、赤字に転落しました。JRであるとはいえ民間企業、会社が赤字である以上、赤字を削っていくしかないのです。

赤字路線を全て廃止するのは違います。全体でネットワークである、という考え方も必要です。しかしながら、芸備線のような明らかな盲腸線は廃止していくしかないでしょう。現在、国土交通省もこれに対して動き出しています。地方の鉄道について、国土交通省が自ら検討会を開き、対策を考えているのです。

コロナ禍で移動需要は一定数減り、新幹線経営なども厳しくなった今、鉄道会社が生き残るためには赤字ローカル線の廃止が一番の手段なのです。さもなければ、黒字の路線ともども、共倒れになってしまうという危機感がJRにはあります。

コロナ禍を経て、上場している鉄道各社もついに経営が厳しくなったのです。

地方の赤字ローカル線を、新幹線の収益で穴埋めできない
2両編成の特急列車を走らせるために高規格な線路を維持するだけの収益が新幹線からえられない(特急スーパーおき)

JR北海道・JR四国を救うには新幹線しかないのか

今でも赤字に苦しみ、経営安定化を図っているのがJR北海道とJR四国です。JR北海道とJR四国を救うには新幹線を建設するしかないのでしょうか。

僕は新幹線建設は、いい影響があろうとも抜本的な解決策にはならないと考えています。JR北海道とJR四国は、多数の赤字ローカル線を抱えています。これらの赤字ローカル線がなんとかならない限りは、新幹線で利益を出したところで赤字ローカル線が足を引っ張る、という事業構造に変わりはないでしょう。

やはりここは、JR九州の成功例を参考にするしかありません。鉄道と相乗効果のあるような鉄道外事業を展開し、それと鉄道事業の両輪で稼いでいくしかないのです。

今後、JR各社が少しでも良い経営ができることを願っています。

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